令和6年度入学宣誓式 学長告辞
本日、滋賀医科大学に入学された学士編入学15名を含む医学部医学科110名、看護学科60名の皆さん、この度はご入学、誠におめでとうございます。本学を代表して皆さんを歓迎し、心からお慶び申し上げます。また、長年にわたりお子様の成長を見守り、勉学を支えてこられたご両親やご家族の皆様にも、心からお祝い申し上げます。
皆さんは、ハードルの高い入学試験を乗り越えてこられました。医学部入試は、今でも厳しい受験戦争と言われております。受験勉強に明け暮れる高校生活といったネガティブな側面のみが強調されることもありますが、競争を乗り越えてこられた皆さんの高い学力は、不断の努力と恵まれた能力の賜物であり、これからの人生を生き抜く自信と誇りとして、素直に胸の内に秘めておいてほしいと思います。一方で、大学入学は新たなスタートです。医師・看護師・保健師・助産師といった職業で社会に貢献する未来の姿を思い浮かべながら勉学に励み、充実した楽しい学生生活をスタートさせてください。
また、大学院医学系研究科医学専攻博士課程に進学された23名、看護学専攻博士前期課程に進学された12名、看護学専攻博士後期課程に進学された4名の皆さん、この度はご進学、誠におめでとうございます。なかでも、看護学専攻博士後期課程に進学された皆さんは、本学がこの4月1日に当該課程を設置してから、記念すべき初めての入学生となります。
皆さんは、これまで医療の現場で多様な経験を積まれ、これからはそれぞれが見つけられた課題を解決するための研究に打ち込まれることと思います。しかし、これまでの先輩たちが解決できなかったこと、あるいは先輩たちが思いもつかなかったことに挑戦するわけですから、考え抜く力と、そこから到達できる独創的な発想が欠かせません。まずは研究の基礎をしっかりと学ぶことが大切ですが、その先は独自の研究を展開されることを期待します。
さて、本学は滋賀県下唯一の医学部として昭和49(1974)年に開学し、今年の10月1日に50周年を迎えます。これまでにも本学からは多くの優れた医療人を輩出し、滋賀県の高度医療と地域医療において中心的な役割を果たすとともに、滋賀県民の命と健康を守ってまいりました。我が国の平均寿命は、女性が87歳で世界第1位であり、男性も81歳で世界第4位ですが(注1)、翻って考えますと、それだけ高齢化が進んでいるということであり、医療の重要性はますます大きくなっています。なかでも滋賀県は、男性の平均寿命が国内第1位、女性は国内第2位となっており(注2)、健康長寿県であるとされております。本学は、「地域に支えられ、地域に貢献し、世界に羽ばたく大学」として地域の皆さんからの信頼を築いてまいりましたが、高齢化が進む滋賀県において、医療におけるその使命がますます重要となってきています。本日入学される皆さんが我々の仲間に加わり、しっかりと学んだうえで、将来の本学と滋賀県の医療を担ってほしいと思います。
ところで、医学部医学科は6年間、看護学科は4年間の学生生活ですが、医療の分野を志す皆さんの多くは、その年限だけで本学との関係が終わるわけではありません。医学科を卒業後は、医師となって卒後研修を本学や関連病院で開始し、さらに将来進みたい専門分野で専攻医の研修を行い、一人前の医師になるまで長い道のりがあります。また、本学卒業生が、本日進学された大学院生のように、医師としての経験を積んで専門医となり、現在の医療では不十分な事柄を解決するために、大学院生として医学研究に進まれることを願っております。一方、看護師、保健師、助産師についても医療の現場に出てみると、多くの未解決の事柄があることに気づかれると思います。看護学科を卒業後も同様に、臨床の経験を踏まえたうえで大学院生として看護学の研究に取り組んでほしいと思います。そして、将来的には、全国的規模から国際的規模まで視野に入れた、医学と看護学の発展に貢献できる医療人に成長されることを期待します。
一方、令和4(2022)年4月1日の民法と少年法の改正により成年年齢が18歳に引き下げられたことにともない、医学部医学科・看護学科に入学された皆さんは、高校卒業直後の方も含めて全員、この4月から大学生であるとともに、「成人」ということになります。飲酒等は今までと同じく20歳まで禁止されていますが、職業選択や契約などは、自分の責任で主体的にできる存在となります。逆にいえば、それだけの責任が自分に課せられることになり、保護者等にすべてを任せるようなことはできなくなります。将来、医療人を目指す皆さんは、特に社会からの大きな期待と同時に、厳しい目も注がれていることを認識してください。また、親しい間柄だけでなく自分とは異なる立場の人に対しても、お互いを尊重する生活態度の涵養は、医療者になる者にとっては極めて重要です。常に相手の立場を尊重し思いやる心配りは、将来、患者さんに寄り添って頼りがいのある医療者となるためには必須であり、若いうちに身につけなければなりません。そして、コンプライアンスの遵守です。法律やハラスメントの定義は、時代の変化に合わせて改正されています。皆さんも、これまでにコンプライアンスの遵守について学んできたと思いますが、本学においてもオリエンテーションや倫理教育において教授しますので、あらためてしっかり学んでください。健全で、やる気に満ち、楽しい大学生活は、コンプライアンスの遵守と相互理解と相互尊重を大切にする環境のなかで育まれます。医学部医学科・看護学科に入学された皆さんにおかれましても、日々の生活のなかで常に相手の立場を尊重し、思いやることを忘れずに行動してください。
さて、私はこれまで、医学部に入学する学生や大学院へ進学する学生に向けて、「素直な心と批判的精神の両立」というメッセージを送ってきました。本日入学・進学される皆さんにも、このメッセージを送りたいと思います。高校までの勉学においては、学ぶ内容について本当に正しいことなのか、疑うことはほとんどなかったのではないでしょうか。もちろん、医学部に入学された皆さんは、医学や看護学といった新しい領域に飛び込みますので、貪欲かつ素直に新しい知識を吸収することが最も大切であることは、あらためて言うまでもありません。その一方で、大人の仲間入りをする若い皆さんには、物事を無批判に受け入れるのではなく、その事実は本当か、その考え方は正しいか、物事の本質を考えることを少しずつ学び始めてもらいたいと願っております。
一方、大学院へ進学する皆さんは、最新の医学と看護学の研究領域への挑戦ですので、自分で出した研究結果が既存の理論と異なることもあるかと思います。自己流の思い込みはいけませんが、ひとつひとつの正確な研究結果の積み重ねが、新たな事実を形成することもあります。常に真摯な態度で研究に取り組んでください。「物事を素直に受け入れる広い心を持ちながら、論理的な批判精神を涵養する」という学びの態度は、皆さんの先輩である我々にとってもなかなか実践は難しいものです。しかしながら、新しい社会のリーダーとなるべき皆さんには、ぜひとも「素直な心と批判的精神の両立」という、柔軟な学びの態度を獲得されることを期待します。
最後になりますが、本学では、開学50周年を機にさまざまな記念事業を進めています。なかでもキャンパスの整備事業については、まさに現在も中庭や学生食堂の改修を行っているところです。皆さんとともに、この節目の年を迎えられることを、大変喜ばしく思います。新しく出会った仲間とともに美しいキャンパスで勉学に励み、また課外活動にも情熱を傾けて、多くの友人と前向きに進んでいってください。
本日入学・進学された皆さんの学生生活、大学院生活が充実した実り多いものとなることを心より祈念し、お祝いの言葉といたします。
令和6(2024)年4月2日
国立大学法人滋賀医科大学長 上本 伸二
(注1)令和5(2023)年公表の厚生労働省「令和4年簡易生命表の概況」による
(注2)令和4(2022)年公表の厚生労働省「令和2年都道府県別生命表の概況」による