がんの制圧は、高齢化によるがん罹患率の増加に伴い、国民からの要望が高い社会的重要課題です。一方、マウスなどのげっ歯類を用いたがん研究で得られた知見が、ヒトには適合しない場合があり、ヒトの病態を再現できる非ヒト霊長類を用いたがん研究の推進が必要不可欠です。そこで滋賀医大が得意とする、カニクイザルを用いた医学研究と先端がん研究を融合させ、がんの制圧に向けた先制医療の開発を、基礎研究から前臨床応用まで包括的に推進することを目的として、以下のような課題に取り組んでいきます。
課題1 「遺伝子改変技術を用いたがんモデルザルの作製」
これまでに「カニクイザル遺伝子改変技術基盤の確立」を行い、GFP遺伝子組換えカニクイザルの産出に世界で初めて成功しました(Scientific Reports 6: 24868, 2016)。さらにゲノム編集技術を用いて、世界初のがんモデルザルを作出することを目指します。(動物生命科学研究センター)
課題2 「サルがん細胞のエピゲノムと染色体動態の解析」
ヒトの多くのがんで、様々なエピゲノムや染色体動態の異常が起こることが報告されています。がんモデルザルでがんが発症した場合、がんに由来するがん細胞株を作製します。そのがん細胞株を用いて、エピゲノムや染色体動態の異常を解析する予定です。(統合臓器生理学)
課題3 「MHCホモのサルに由来するがん細胞の移植と、TCR遺伝子導入T細胞を用いたがん免疫療法の開発」
がん細胞を移植するには、MHCという拒絶抗原の型が一致していなければ移植が成立しません。滋賀医大ではMHCの型が両親由来の2組とも同じであるホモ接合のカニクイザルを保有している点も大きな強みになっています。MHCホモサル由来のiPS細胞からがん細胞が樹立されており、MHCホモ(2組一致)/ヘテロ(1組一致)サルへ移植することが可能です。移植したがん組織に浸潤するT細胞からT細胞受容体(TCR)遺伝子を単離し、活性化したT細胞に遺伝子導入したのち、がんを持ったサルに移入しがんを治療できないか検討します。(疾患制御病理学、分子生理化学)
課題4 「MHCホモサル由来のiPS細胞を用いた再生T細胞によるがん免疫療法の開発」
活性化したT細胞に外来性のTCR遺伝子を導入しても、元々のTCRが発現しているため、外来性のTCRが十分に発現しないことがあります。そこで、MHCホモサル由来のiPS細胞に、がんに反応するTCR遺伝子を導入してからT細胞へ分化誘導することにより、導入したTCRを高発現させ、かつがんを殺傷する活性の高いT細胞を再生することを目指します。(この研究は、京都大学 ウイルス・再生医科学研究所 再生免疫学分野の河本 宏教授と共同で行います。(疾患制御病理学、分子生理化学)