令和4年3月10日
国立大学法人滋賀医科大学長 上本 伸二
本日ここに、令和3年度滋賀医科大学卒業式ならびに第2回学位授与式を挙行できますことは、本学にとって大きな喜びであります。
医学科を卒業される120名、看護学科を卒業される62名の皆さん、ご卒業おめでとうございます。6年間、または4年間の学業を終えて、この日を迎えられたことに心より敬意を表します。皆さんは本日学士の資格を得て卒業されます。ここに至ったのは、もとより皆さんの努力によるものでありますが、同時にこれまで皆さんを育て支えてくださったご家族の方々、そして皆さんを指導し励ましてこられた先生や友人のおかげでもあります。そのことに改めて感謝していただきたいと思います。
しかし本日は誠に残念ですが、新型コロナウイルス感染症が未だ終息に至っていない状況ですので、本日の喜ばしい式典にご来賓やみなさんのご家族に列席していただくことができず、簡素な式にせざるを得ませんでした。
2年前からの新型コロナウイルス感染症の蔓延は、卒業される皆さんの学生生活を一変させました。特に今年度卒業される医学科の皆さんは、臨床実習であるクリニカルクラークシップが始まる時にコロナ禍に入ったことから、突然のクリクラの中止、そして見学型のクリクラの再開から本来の診療参加型のクリクラに移ったわけですが、その間にもコロナ禍は6回の蔓延をきたすこととなりました。この2年間は不安の中で過ごされたことかと思いますが、この度立派に卒業されたことに敬意を表します。看護学科の皆さんも、臨地実習や看護研究において、さまざまな制約がある中、粘り強く取り組まれて、本日の卒業式に臨まれるまで成長されたことに敬意を表します。特に助産師課程の皆さんは、分娩介助実習において極めて厳しい環境の中で実習をやり遂げられました。このような厳しい状況の中における、皆さんの努力と経験は今後の人生において大きな糧となり、また医療者として感染症に対する知識と実践能力を育む機会があったことが皆さんのアドバンテージになることを期待しております。
さて、卒業を迎えた皆さんの今の思いはどのようなものでしょうか。本日は、皆さんが入学した年に思いを綴った「入学に際しての決意書」が返却される日でもありますが、おそらく入学の時の決意に恥じない成長をされて本日を迎えられたことと思います。学長の私も入学時の決意書に目を通しておりますが、皆さんは入学時に将来はこのようにありたいという医療者像に思いをはせております。その中で、多くの学生達が描いている医療者の姿は、医療者としての確かな知識と技術を身に着けること、そして患者さんと同じ目線で患者さんに寄り添うことができること、この2つを兼ね備えた医師と看護師の姿です。この医療者像は世代を超えて、また国を超えて、あるべき医師と看護師の基本形であると確信しておりますが、入学してからの学生生活の中で、皆さんはその思いを強められたのではないでしょうか。患者に寄り添って頼りがいのある医療者となることを目指す純粋な心構えをこれからも忘れないでください。
国家試験を終えたばかりの皆さんは、医学と看護学の広い範囲における知識の量に関しては、先輩達も凌ぐほどの高いレベルにあります。しかし、これから皆さんが進んでいく専門領域においては入口の知識であり、各専門領域においてはまだまだ知らないことばかりです。医師の場合には、初期研修2年、専攻医研修が3年、そして大学院での研究や留学、あるいは診療をしながらでも疫学研究の基盤は身につけてほしいと思いますので、本当に頼りになる専門医になるには今後10年近くを要すると思います。4月から滋賀県で研修を始める方、県外で研修を始める方と様々ですが、将来は色々な分野で滋賀県の医療に貢献してほしいと思っております。今年の卒業生のアルバムには、ありきたりのことわざですが、「好きこそ物の上手なれ」を学長からのメッセージとしてお送りしました。最近では、モチベーションを維持する環境が大切だとよく言われますが、最大のモチベーション維持の秘訣は、好きなことを続けることだと思います。また、英語で似たようなメッセージとして、「Do what you love, then success will come」があり、欧米ではより現実的に人生の成功はいかに好きな仕事を見つけるかにかかっているとされています。今後はどのような専門領域に進むか、色々なことを経験して、自分の心に正直な方向に進んでいってください。
次に、大学院博士課程を修了し博士の学位を取得された17名、論文審査に合格して博士の学位を取得された15名、修士課程を修了し修士の学位を取得された7名の皆さん、おめでとうございます。皆さんはそれぞれの研究テーマを追求し、立派な論文にまとめられたわけですが、ここに至る道のりは必ずしも平坦ではなかったと思います。研究を続けていると予想外の困難に直面することがしばしばあります。しかし、そうした試練を乗り越えて研究を達成し、今日を迎えられました。そのことに大きな誇りを持ってください。なぜなら、皆さんの研究成果は世界の中で唯一無二のものであり、研究指導者の支援があったものの、さまざまな医学や医療の背景の中で、研究のテーマを自分の頭で考え出し、自力で研究を遂行した経験は極めて大きなものです。今後の皆さんの研究の場においても、医療の現場においても、自分の力で、あるいは仲間と協力して困難を乗り越える大きな力となることでしょう。
私は、医師及び研究者としての自分の経験から「素直な心と批判的精神の両立」というメッセージを常に若い世代の皆さんに伝えています。素直な心は多くの新しいことを学んでいく上で大切な心構えです。特に年齢を重ねるにつれて人間の心は頑固になってくる傾向がありますので、ますます素直な心が重要になってきます。一方で、これから学ぶことのすべてが正しいとは限りません。常識だと信じている中に、間違ったことが平然と隠れていることがあります。ちょっと変だなと疑問に思ったら、立ち止まって、“まてよ”と考えてみましょう。新しい発見は間違った常識の中に隠れていることがあります。医学や医療の中に、あるいは一般の社会生活の中に、まだまだそのような間違った常識が隠れています。素直な心と批判的精神の両立は大切なことですので、時々は思い出してほしいと思います。そして、間違いを見つけた時には、勇気をもって正しい方向に改善してください。
本学は2年後に開学50周年を迎えます。これまでに5千人を超える卒業生が巣立ち、滋賀県、全国、世界で活躍しています。そして、皆さんのこれからの活躍が滋賀医科大学の発展を支え、後輩たちの大きな励みになります。皆さんの前途が希望に満ちた輝かしいものであることを心から祈念して、お祝いの言葉といたします。