新年明けましておめでとうございます。
短い年末年始の休暇でしたが、教職員の皆さまにおかれましては、リフレッシュして新年を迎えられたことと思います。

さて、昨年の年頭挨拶においては、サステナブルな滋賀医科大学を構築するために大切な重要課題として、専攻医のリクルート、看護学科修士課程入学者の確保、附属病院経営、外部資金獲得の4項目をお話しいたしました。年頭の挨拶として、これらの課題に関して、1年間の経過をご報告いたします。

まず、2022年度の専攻医は64名ですので、2018年から始まった新専門医制度下での専攻医リクルート数は平均58名/年となりました。新制度以前の本学入局者は40名弱であったことを考えますと飛躍的な向上であります。近隣府県のシーリングによる影響も多少はあると思いますが、各臨床医学系講座の充実した診療活動、関連病院と協働した丁寧な卒後教育、充実した卒前教育と学生や初期研修医へのアピール、そして医師臨床教育センターの努力の賜物であります。

次に、2022年度の大学院医学系研究科修士課程看護学専攻の入学者は、定員16名に対して25名入学と大幅に増加し、高度な看護学人材育成の見通しが立ちました。

続いて、附属病院経営に関しましては、長引くコロナ禍の中ではありますが、診療収入は目標額を上回りました。その内訳をみると、入院及び外来の診療単価の上昇、新規入院患者数の増加、手術件数の増加、救急車搬入患者数の増加等を伴っています。つまり、高度急性期から慢性期まで、幅広く県民の要望に応えるという特定機能病院の役割を遂行しながらの良好な経営状態でありまして、教職員の皆さんの不断の努力に感謝申し上げます。

また、競争的資金を含む外部資金の獲得状況は例年同様でありましたが、2022年度に6つの共同研究講座を設置したことは大きな成果であり、今後、共同研究講座から社会実装できる研究成果が出ることを期待しています。同時に、多額の間接経費を大学全体の研究力強化に充てられることから、大きな経営基盤強化につながることにも期待しています。

以上のように、将来に向けての人材確保と財政的サステナビリティに関しては、良好な成果が得られた一方で、昨年は本学学生3名が強制性交等容疑で逮捕・起訴される重大な事件が発生しました。被害に遭われた方や関係者の方々には、あらためて心からお詫び申し上げます。すでに学生のうち1名は退学処分といたしましたが、残る2名の学生に対しても、引き続き今後の裁判の動向を注視しながら、確認できた事実に基づき厳正に対処いたします。二度とこのような事件が起きないよう、教職員・学生の皆さんにご協力いただいたアンケート結果を踏まえて種々の再発防止策を立て、教職員の皆さん、各学科・学年の学生の皆さん、そして学生の保護者の皆さまにご報告したところです。このような性犯罪やセクシャルハラスメントを防止するために最も大切なことは、常に相手の立場を考えたうえで発言・行動する謙虚な態度です。これは医療従事者としては当然の素養なのですが、そのような心を育む教育環境が不十分であったと反省しています。医療従事者を目指す学生たちに対して、他者を尊重する心構えを涵養するカリキュラムを強化し、入学時から卒業時まで継続的に教育する対策を立てました。

一方で、保護者や外部の有識者からは、学生懲戒の規則を学生たちにしっかりと伝えておくことが重要であるとの指摘があり、この点は本学の規則を学生たちに適切に伝えることで、社会の規範を理解させることに繋がります。学生たちに成人としての社会規範を理解させ、認識不足から罪を犯してしまうことがないようにすることも、私たちの重要な責務であると考えております。

今回の事件は、相当なショックを本学に与えており、私たちもまだ立ち直っておりません。また、裁判は続いております。しかし、社会の信頼を回復し、数年後に胸を張って本学の将来を語れるようになるための方策は、学びの場と働く場の環境をより良いものにしていく地道な努力以外にありません。昨年の年頭挨拶で、安心できるサステナブルな環境があってこそ、働いていて楽しいアトラクティブな環境が築けると述べました。そして、アトラクティブな環境の構築と維持のためには組織の透明性、コンプライアンスの順守、ダイバーシティの尊重の3点が大切であると述べました。今回は、この3点に加えてコミュニケーションの推進をお伝えしたいと思います。

学長をはじめ執行部は、組織の透明性を常に意識しており、役員会等の各種会議には複数の関係者の陪席を推進して、議論の内容を公開しています。また、各種会議における陪席者からのご意見に対する議論や、教授会における執行部からの報告に対する意見交換は、コミュニケーションを介した相互の理解に繋がっていると思います。さらに、学長と学生との懇談会や准講会との懇談会で、多岐にわたる問題の意見交換を行うことで、お互いの考えを尊重しながら新たな問題点を少しずつ解決していくことが可能になると思っています。

最後に、話題が少し飛びますが、経済界では「株主資本主義」から「公益資本主義」にコンセプトが変化してきました。これは、社会の一部に富が過度に集中すると、社会全体の経済活動が低下することへの反省から、富の配分を多くのステークホルダーに広く行うことで、経済活動全体の底上げを期待するものです。同様に、社会のありようも「自己責任社会」から「支え合う社会」にシフトしてきていると思います。本学の諸活動は、教職員と学生の前向きな取り組みが基本ではありますが、そこにはお互いが支えられているという認識が絶対に必要です。その認識を実感するためには、組織の透明性、コンプライアンスの順守、ダイバーシティの尊重、良好なコミュニケーションが不可欠であることを、あらためてお伝えし、年頭の挨拶といたします。

今年も何卒よろしくお願い申し上げます。                          

令和5(2023)年1月4日 
国立大学法人滋賀医科大学長 上本 伸二