大変暑かった夏もようやく終わり、ここ湖国にも秋の気配が濃くなって参りました。昨今の新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延の中で、わが国も健康的な問題や経済的な問題だけでなく、教育・研究においても激変の状況が続いております。
猛威を振るっていた第7波の新型コロナウイルス感染症の状況は、感染者数をみると9月中頃から緩やかな減少を認めており、政府が打ち出したウィズコロナ政策の影響で教育・研究環境を含む社会状況が少しずつ安定してきた状況において、本日ここに令和4年度第1回滋賀医科大学学位授与式を挙行できることを心から嬉しく思います。
このたび大学院医学系研究科博士課程を修了し博士の学位を取得された14名、論文提出と所定の審査に合格して博士の学位を取得された4名の皆さん、おめでとうございます。これまで数年間、さまざまな苦難を乗り越えて研究を遂行し、研究成果を論文にまとめられて学位取得に至られたご努力に敬意を表します。
これまでに滋賀医科大学から学位を授与された方は、本日の皆さんを加えて、博士が1431名となりました。本学で学位を取得された方々は、研究者として、あるいは指導的な医療従事者等として、全国で活躍しておられます。
研究を進めていると、しばしば予想外の困難に遭遇し、計画通りに研究が進まないということを経験します。また、研究が完了したのちにはそれを論文にまとめ、できるだけよい雑誌に掲載しなければなりませんが、その過程で査読者や編集者の厳しい審査に通らなければなりません。皆さんはそうした試練を乗り越えて自らの研究を完成して今日を迎えられましたので、これまでの努力と研究成果を大きな誇りとしてください。今後、皆さんが研究や医療の場をはじめ、いかなる場にあっても、大学院時代に研究を遂行したことと、身に着けたリサーチマインドが大きな支えになります。なぜなら皆さんは、研究の中で自らのアイデアを練り上げ、それを計画的に実行して明確な成果を出す経験をしてきたからです。この経験は、今後の様々な場面で、自ら考え、自ら計画し、物事を改善していく基本姿勢として生きていくこととなります。
一方、研究成果に関して決して忘れてはならないことは、科学者として偽りなく研究を真摯に遂行したことです。近年のIT技術の進歩と情報公開制度の発達に伴い、ほとんどの研究成果が誰の目にもオープンとなる環境になってきました。研究成果のオープン化はあるべき姿として喜ばしいことですが、現状では研究不正事案の告発が後を絶たない状況となっております。当たり前のことですが、研究を公正に遂行することの重要性を今一度再認識してください。そして、研究で培った物事に真摯に取り組む習慣は、今後の研究の場においても医療の実践においても、極めて重要な基盤となり、皆さんの大きな財産となります。
さて、皆さんはこれから進まれるそれぞれの立場において、困難な課題の解決に率先して取り組み、新しいイノベーションの旗手となってください。少子高齢化の進展、人工知能やI o Tの急速な進歩によって、これからの大学も医療の現場も激動の時代に直面します。これは、大変なことのように思われますが、見方を変えれば、大変にエキサイテイングな新しい未来が皆さんを待ち構えているということであります。前向きなモチベーションを胸に秘めて、飛び込んでいってください。 皆さんが今後、指導的な研究者や医療従事者等として、医学の発展と人々の健康と福祉の向上のために、それぞれの立場で存分に力を発揮されてご活躍されることを祈念して、お祝いの言葉といたします。
令和4年10月3日
国立大学法人滋賀医科大学長 上本 伸二