令和2年度に滋賀医科大学に入学された皆さん、1年前の4月は新型コロナウイルス感染症拡大による大変厳しい環境の中での入学となりました。入学式が急遽中止になり、短時間での新入生オリエンテーションにのみ参加する形で、皆さんの大学生活が始まりました。このような厳しい環境を乗り越えられてきた皆さんに対し、1年遅れではありますが、本日、晴れて入学式が挙行できますことを、大変うれしく思っております。

令和2年度に本学に入学された学士編入学15名を含む医学科110名、看護学科60名の皆さん、あらためてご入学おめでとうございます。本学を代表して皆さんを歓迎し、心からお慶び申し上げます。長年にわたりお子様の成長を見守り、勉学を支えてこられましたご両親やご家族の皆様のお喜びはひとしお大きなものであると思います。新型コロナウイルス感染症の流行のため、本日の入学式にご両親やご家族の皆様をお迎えすることは叶いませんでしたが、この場をお借りして、お祝い申し上げます。

入学して1年が経ちますので、皆さんはハードルの高い入学試験を乗り越えてこられたことを遠い昔のように思われるかもしれません。しかし、医学部の入試は今でも厳しい受験戦争だと言われております。受験勉強に明け暮れる高校生活というネガティブな側面のみを強調されることもありますが、競争を乗り越えてこられた皆さんの高い学力は不断の努力と能力の賜物であり、これからの人生を生き抜く自信と誇りとして素直に胸の内に秘めておいてほしいと思います。一方で、大学入学後は新たな気持ちでスタートされたことと思いますが、入学早々に大学のキャンパスに入れず、Webを用いた遠隔授業が始まり、不安の中で過ごされたことと思います。後期からはキャンパスの中で、不完全ながらも通常の大学生活ができるようになりました。勉学に励み、また感染症に気を付けながら課外活動を楽しみ、大学生活をエンジョイしてください。

また、昨年度4月に大学院博士課程へ進学された21名、修士課程へ進学された6名の皆さん、ご進学おめでとうございます。皆さんの多くは医療の現場で経験を積まれ、その中で未解決な課題が多いことに驚かれたのではないでしょうか。そして、これからはそれぞれが見つけられた課題を解決するための研究に打ち込まれることと思います。しかし、これまでの先輩たちが解決できなかったこと、あるいは先輩たちが思いもつかなかったことに挑戦するわけですから、考え抜く力とそこから到達できる独創的な発想が必要になります。まずは研究の基礎をしっかりと学ぶことが大切ですが、その先は独自の研究を展開してほしいと思います。

本学は滋賀県下唯一の医学部として昭和49(1974)年に開学し、優れた医療人を輩出して滋賀県の高度医療と地域医療の中心的役割を果たすとともに、滋賀県民の命と健康を守ってまいりました。わが国の平均寿命は、女性が87歳で世界第二位であり、男性も81歳で世界のトップクラスにありますが(注1)、翻って考えますと、それだけ高齢化が進んでいるということであり、医療の重要性はますます大きくなっています。その中でも滋賀県は、男性の平均寿命が日本一であり、健康長寿県であるとされていますが、同様に高齢化が進んでいることを理解しなければなりません。本学は「地域に支えられ、地域に貢献し、世界に羽ばたく大学」として信頼を築いてまいりました。高齢化が進む滋賀県において、その使命がますます重要となってきています。本学に入学した皆さんが我々の仲間に加わり、しっかりと学んだうえで、将来の本学と滋賀県の医療を担ってほしいと思います。

ところで医学部医学科は6年間、看護学科は4年間の学生生活ですが、医療の分野を志す皆さんの多くは、その年限だけで本学との関係が終わるわけではありません。医学科卒業後は、医師となって卒後研修を本学や関連病院で開始し、さらに将来進みたい専門分野で専攻医の研修を行い、一人前の医師になる長い道のりがあります。看護学科卒業後は看護師として経験を積みながら、高度な看護実践能力を有する専門看護師を目指すこともできます。また、多くの本学卒業生が、大学院生として医学や看護学の研究に進まれることを願っており、大学院時代に培った実績と能力をバネにして海外留学にも挑戦してほしいと思います。海外留学で研究や診療のレベルを高めるとともに、外国での生活を通して肌身で異文化を理解することと、留学の時に出会った友人は、今後の長いキャリアパスにおいて一生の宝物となるはずです。常に世界に目を向けて診療と研究を推進してより良い医療や研究を展開するリーダーとなるように頑張ってください。

さて、現在の世界における価値観は混沌としています。一例として新型コロナウイルスの世界的蔓延の中で、これまでは良いこととされていた「効率化」というコンセプトに大きな疑問が生まれてきています。医療における「効率化」を率先して進めてきたEU諸国やアメリカは、看護師不足やベッド不足のために新型コロナウイルス症患者の治療が困難な状態に追い込まれ、多くの死者を出しました。わが国の医療環境がベストとは言えませんが、「効率化」競争に乗り遅れていた事情もあり、少なくとも欧米諸国のような悲惨な状況ではありません。今回のコロナ禍の逆境において、医療現場では、危機対策としてある程度の余裕が必要であることがあぶり出されたことになり、今後の医療行政のあり方も変化していくことと思います。

このように、これまでは正しいと思われていたことが環境の変化の中で必ずしもそうでないことが判明してくると、物事には二面性があるという事実をあらためて考える必要があります。もちろん、医学や看護学という領域に飛び込んだばかりの皆さんにとっては、貪欲に新しい知識を吸収することが最も重要であることは、あらためて言うまでもありません。その一方で、これから大人の仲間入りをする若い皆さんには物事を無批判に受け入れるのではなく、物事の表と裏を考えることを少しずつ学び始めていただきたいと願っております。「物事を素直に受け入れる広い心を持ちながら論理的な批判精神を涵養する」という学びの態度は、皆さんの先輩である我々にとってもなかなか実践は難しいのですが、新しい社会のリーダーとなるべき皆さんには、ぜひともこの柔軟な学びの態度を獲得してほしいと思います。具体的には、いろんな場面で、常に質問を考える習慣をつけることではないでしょうか。そのためには物事を理解することから始めますが、その理解の上で疑問に思ったことを自分の頭で考えてみることの継続が大切であると思います。

皆さんは、本学のキャンパスにおいて新しい仲間に出会いました。そして、この仲間たちの多くは、おそらくこれからの一生を共にする仲間であろうと思います。人間は一人では何もできません。仲間たちと語り合うことで人を理解し、共感し、そして自分で考える力を向上することができるようになります。勉学に励み、またクラブ活動にも情熱を傾けて、多くの友人と一緒に前向きに進んでいってください。

皆さんの学生生活が、充実して実り多いものになることを心より祈念し、お祝いの言葉といたします。

令和3年4月2日
国立大学法人滋賀医科大学長  上本 伸二

 

(注1)2020年7月に公表された厚生労働省「令和元年簡易生命表の概況」による