令和3年1月4日
国立大学法人滋賀医科大学長 上本 伸二

明けましておめでとうございます。
新型コロナウイルス感染が広がっている環境の中ですが、教職員の皆さんにおかれましては、ご健康に留意されて、新年を迎えられたことと思います。

まずは昨年の新型コロナウイルスの感染拡大への教職員の皆さんの献身的なご対応に、心から御礼申し上げます。附属病院に勤務されている医療従事者におかれましては、感染リスク等がある中で、患者さんが療養されているホテルでのご対応も含め、患者さんの救命に尽力いただきました。また、教職員におかれましては、診療面では、PCR検査体制を確立し、緊急時には徹夜業務で100名あまりのPCR検査を遂行していただきました。教育面では、いち早くオンライン教育ができる環境を整備し、全国に誇れる滋賀医科大学の教育モデルを構築していただきました。研究面では、カニクイザルの肺炎モデルを作成され、このモデルを使用した共同研究で革新的な成果が生まれようとしていると聞いております。事務職員の方々におかれましては、教員、医師、看護師、技師等の業務支援、そして補助金や補正予算獲得に向けて迅速かつ的確に対応いただき、新型コロナウイルス感染で被った財政上の危機を和らげていただいております。その他にも種々の場面で教職員の皆さんに献身的に業務遂行いただきましたことに、あらためて感謝申し上げます。

新型コロナウイルス感染は今も日本中で猛威を振るっており、今年もこれまでの経験を生かして適切にご対応いただくことをお願い申し上げます。一方、本学がこれまでに築き上げてきた伝統とノウハウに基づいて、医学生と看護学生の教育、特定機能病院としての地域住民への医療の還元、研究の推進など、これらを支障なく継続することが最も大切なことですが、国立大学の法人化後16年目の今、これまで国立大学の改革が繰り返しいわれ続けてきた流れの中で、大学運営において教職員の皆さんと思いを共有しておきたいことがあります。それは大学運営のガバナンスの在り方です。

国立大学法人化の目的は大学経営の財政的強化であり、そのためには大学運営のガバナンスの強化が重要であるとされていますが、単なるトップダウンのガバナンス強化は、間違った方向に向かえば独断専行となるリスクを有しております。また、この16年間、大学改革に向けて種々のコンセプトが提案されてきましたが、大学にとって本当に大切であり、かつ大学の発展のために重要なものは、コンプライアンス遵守に不可欠な組織の透明性と、財政基盤強化のための外部資金獲得の2点であると考えています。そのうえで、大学運営のガバナンスを考えた場合、大学の発展は教職員の頑張りに依存することは自明の理ですので、ガバナンスの要点は、執行部と教職員がお互いに十分な議論を重ねたうえでの、トップダウンとボトムアップのバランスであると考えています。具体的にいいますと、ものごとは規則に基づき決めなければなりませんが、お互いに説明できる理由を明確にして決めることが原則であります。

さて、本学におけるこれまでの取り組みを日々推進してもらうことが最も重要であると申しましたが、そのうえで、私が進めたいことが1つあります。それは滋賀県における若手の医療従事者をこれまで以上に増やして、滋賀県における医療のリーダーシップをこれまで以上に発揮することです。滋賀県の医療環境は人口10万人あたりの医師数、看護師数(准看護師を含む)とも数字でみると全国平均より低く、医師数においては近畿圏内では最低となっています。滋賀県における医師の供給に関しては、これまで他府県の大学に頼ってきたところがありますが、今後はこれまでのように滋賀県に医師を派遣する余裕は次第になくなっていく状況です。さらに、3年後には医師の時間外労働の上限が変更されますので、滋賀県の医師の供給を維持することにはかなり危機感を持つ必要があります。もちろん、本学でこれまで進めてきた学部教育における地域基盤型教育は非常に重要であり、地域医療に貢献する医師を多く輩出しておりますが、これを継続したうえで、高度医療を含めた医療全体の発展を目標にする必要があります。短期的には新専門医制度における専攻医獲得に努力することが必要ですが、中長期的には若手医療者を自然に本学に引き付ける工夫、つまり本学をマグネット大学・病院にすることが必要です。そうなるためには本学が診療においても、研究においても近隣の大学を凌駕するステータスを築き上げることが必要条件であり、そのための戦略としては全国的に優秀な人材のリクルートと、幅広い領域での研究活動の活性化であると考えています。より具体的にいえば、若い人材を引き付けることができる教授を選考することと、科研費を中心とした外部資金獲得の増加が当面の目標です。そのために人事委員会を活用して、有効かつ公平で、透明性のある教授選考を進めるよう努めております。また、科研費申請におきましてはURAの支援をバネにして、若手研究者の意識改革を狙っております。さらに、近い将来には研究に専念できる大学院生を増やして、診療や教育で多くの時間を割かれて疲弊している教員の研究環境も改善したいと考えております。

私の伝えたいことは、教職員の皆さんに無理を強いたいということではありません。これまでも確実な歩みで頑張ってこられた皆さんに、少し視点を変えていただきたいということです。そして、本学の将来展望に安心感を持ち、その中で楽しさを感じられるようにならなければ前向きな仕事はできません。“サスティナブルでアトラクティブな滋賀医科大学”を合言葉に、透明性のある組織の中で皆さんの前向きな取り組みを期待しております。

今年も何卒よろしくお願い申し上げます。