平成31年3月8日
滋賀医科大学長 塩田 浩平(しおた こうへい)
本日ここに、平成30年度 第2回滋賀医科大学学位授与式を挙行できますことを心からうれしく思います。
このたび大学院博士課程を修了し博士の学位を取得された21名、論文審査に合格して博士学位を取得された5名、修士課程を修了し修士の学位を取得された4名の皆さん、おめでとうございます。滋賀医科大学を代表して、お祝い申し上げます。これまで支援してこられましたご家族ならびに関係の皆様にも心からお慶びを申し上げます。また、研究を指導してこられた指導教員や協力された同僚の先生方にも御礼申し上げます。
これまでに滋賀医科大学から学位を授与された方は、本日の皆さんを加えて、博士が1286名、修士が238名となりました。皆さんはこれまでの数年間、自ら選んだテーマをもって研究に打ち込み、学位論文をまとめられました。この研究成果と研究者としての経験を基に、これからは研究者として、あるいは指導的な医師・看護師として、それぞれの立場で活躍されることを期待しています。
皆さんは本日晴れて学位を取得されましたが、ここに至る研究の過程では様々な困難に遭遇し、計画が思い通りに進まずに不安を覚えたということもあったかと思います。そうした難しさは研究につきものですが、その試練を乗り越えたところに達成感と喜びがあることも皆さんは体感されたことでしょう。そのことに自信と誇りを持っていただきたいと思います。大学院時代は、研究者としては修練の期間ですが、数年間、自らの課題に向かって全力で取り組んだこと、そして、自由に考える時間の中で研究者としての素養と心構え、そして物事を深く追究するという習慣を身につけたことは、これから研究者あるいは臨床家として歩んでいく上で、重要なバックボーンとなります。これから研究を継続される方も臨床の現場へ戻られる方も、大学院時代に身につけた研究的態度(research mind)を忘れることなく、医学・看護学と医療の発展に貢献されることを期待いたします。
いま、医学・看護学を含む科学の分野には大きな変革が起こっています。ゲノム医療、再生医療、医療や介護へのロボットやAIの導入など、新しい知識や技術が研究と臨床の現場に深く入り込んできています。そこでは、〇〇学といった古典的な学問体系の枠組みがなくなり、全く新しい発想、つまりパラダイムシフトが起こっています。異分野間の協働、そして既成の領域を越えて発想する「越境」によって、新しい価値が創造されるという例が次々に出てきています。
研究におけるそうした代表例の一つが、昨年のノーベル生理学・医学賞を受賞された本庶佑先生の研究と言ってよいでしょう。本庶先生は高名な免疫学者ですが、免疫細胞の細胞死に関連する分子PD-1の機能解析をする過程で、抗PD-1抗体ががん細胞を死滅させることを偶然に見いだし、「オプジーボ」という抗がん剤の開発に結びつきました。この免疫チェックポイント阻害剤という画期的な治療薬によって、これまで有効な治療法がなかった多くのがん患者が救われています。皆さんもこれから、臨床にあっても研究の場にあっても、常に科学的態度をもって患者さんや研究対象に向き合って下さい。そこでは大学院時代に身につけた科学者としての考え方が必ずや役に立ち、様々な気づきや発見があるはずです。皆さんのこれからのプロフェッショナルとしての人生が、豊かで実り多いものになることを願っています。
学位を取得された皆さんの中には6名の留学生の方がおられます。外国である日本で研究生活を全うされたご努力に敬意を表しますとともに、皆さんが滋賀医科大学の研究を担っていただいたことは、本学の国際化と研究の発展の上でも大変意義あることであり、嬉しく思います。
留学生の方の中には、自国へもどり指導者としての仕事に就く方もおられると思います。この滋賀医科大学で得たことを活かし、優れた若者を育て、医学医療の発展、そして国の発展に貢献していただければ、我々にとっても大変うれしく名誉なことであります。将来、皆さんが機会を見つけて滋賀医科大学を訪ねていただき、相互の交流が継続発展すれば大変うれしいことであります。
科学技術の進歩の速度は我々の想像の域を超えており、10年後、20年後の世界は今とは全く違うものになっているはずです。急速な進歩について行くのは大変ですが、見方を変えれば、皆さんの行く手には未知の大きな可能性が広がっているということでもあります。皆さんがこれからも健康で、新しい時代の医学・看護学のリーダーとして大いに活躍されることを祈念して、私のお祝いの言葉といたします。